August 17, 2004

Mr.Jalal Kamil (8/15)

延びに延びていた国民大会議が今日から始まった。一層の治安悪化が予想されるので、極力外出は控えた方がいいとサラマッドから言われていたが、なんとその当人は早朝からヨルダン国境に向けて出発してしまった。結婚関係の書類等手続きのためフランスに一時帰国していた愛しの新妻、アマラを迎えにいくためである。今回は空路で来いとサラマッドも勧めたらしいが、アマラがどうしても陸路がいいと言い張って譲らなかったらしい。確か6月前半にアマラがフランスに帰るときも、ファルージャ情勢が悪化する中陸路で送っていったので、当時バグダッドで取材を続けていたフリージャーナリストの志葉くんが心配していたのを思い出す。さすが妻は元人間の盾をやっていただけあってか、まるでいつも危険なタイミングを選んでいるかのようだ。全く何もこの時期に来なくてもいいのに。とにかく二人の愛の力を信じて無事を祈るしかない。(16日二人とも無事到着しましたのでご安心ください)

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日中はおとなしく事務所で作業を続けていたが、夕方から近所のイラク人俳優ジャラル・カーミルさんの自宅に招待される。同じカラダ地区にあるとは聞いていたが、何と事務所から歩いて5分ほどの距離にある9階建てのマンションの最上階であった。女優の奥さんサナさんと、とても人なつっこい二人の息子、ハッサン君とフセイン君の4人家族。サナさんの妹さんも遊びに来ていて、久しぶりに魚料理をご馳走になった。

ジャラルさんとは4月にヘワーギャラリーで偶然出会い、オウドをおしえてもらったがきっかけで仲良くなった。(イラクからの風参照。ただし当時名前の綴りを間違えて紹介しておりました)イラク人なら誰でも知っているほど有名な俳優で、これまで主演男優賞も二度ほどとっている。
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十代後半から映画に出演していて、主に悪役が多く、最近では監督も手がけ主演男優も兼ねることが多くなってきた。女優のサナさんと結婚したのは1997年だが、それ以前からよく共演はしていたようだ。
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俳優の他に自作の歌も歌い何枚かアルバムも出しているし、劇団の監督まで務めるなど、実に多彩な才能を発揮している。

時に目をカッと大きく見開き、立ち上がり身振り手振りを加えながら情熱的に話す様子はまさに根っからの芸人である。そんなジャラルさんも、イラクの状況には心底疲れてきているという。サダム時代は自由がなく、全てがサダムのためでありそれはひどいものであった。そのサダムがいなくなっても、今ではいつどこで爆破事件があるかわからないので安心して街を歩けない。おまけに停電はひどいし、9階のため水道から水が出るのは早朝の一時間だけなので、いつも汲み置きしておかなければならないと、食事の後私が石鹸で手を洗うとき、盥に入れた水をやさしくかけてくれながら説明してくれた。「こんなことに神経を使うのはもううんざりだ。人間は通常、持っている能力の7%くらいしか使っていないというが、そのわずかな力すらこんな心配ですり減らすのは耐え切れない。俺は芸に集中したいんだ。もてる力の全てを注ぎ込みたいんだ。平和な環境が必要なんだ。わかるか?」迫真の演技と思いたいが、これは全くの本音であろう。

ジャラルさんは、もうこんなイラクから出て行ってしまいたいと何度も考えるが、それでもここまで自分を育ててくれた人々、そしてこのイラクの文化と歴史のことを思うたびに、やはりこの地を捨てることは出来ないというジレンマに陥ってしまうという。今日は日本の敗戦記念日だということを話すと、「日本はその後アメリカともうまくやって、実に素晴らしい国になった。俺達だってアメリカと友人としてうまくやっていきたいんだ。石油なんていくらでもくれてやるというのに、どうして連中は出て行かないんだ。世界最強の力を持った国に逆らったって勝てるわけがないが、やはりどうしても気に食わない奴はいるから、米軍がいる限りこのように戦闘は続く。本当にイラクのことを友人と考えてくれるのなら、サダムを倒すという仕事は終わったんだから、さっさと出ていくべきだ」と言う。そういえば彼の最新の歌でもそうした内容の歌詞があった。

戦後の日本をべた褒めするので、そんなにいいことばかりではなく、例えば自殺者数が年間3万人以上、一日あたり90人近いということを話すと「どういうことだ」と夫婦で仰天していた。やはり全く理解できないらしい。「イラクの抱える問題と別の問題をわれわれは抱えている。日本は経済大国になる道を選んだが、失ったものもまた大きいかしれない。たとえば戦争中でもここでは客人を大切にもてなし、街を歩けばみな笑顔で挨拶してくれる。私はイラクに来るたびに、何か忘れかけていた何か、人間として生きるということはどういうことなのかということを、いつもおしえてもらうような気がする」と話すと、ジャラルさんは「これまで外国に行って、イラクなんか出てここに住めといわれることは多かったが、どうしてもそれは出来なかった。この国にすむ人々の持つ自然さ、純朴さ、そしてそうした人々が作るゆるやかな時間の流れを、失いたくないのかもしれない」とのことだった。

ジャラルさんは今、新しいテレビドラマの収録中で、もうすぐ全て撮り終わるとのことだった。そしてこれから自分達の作品がもっと世界に紹介されることを切望している。私の滞在は残り少なくなってしまったが、うまくいけば出国前に彼の作品を観る機会を作ってもらえるかもしれない。
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