« 前回記事の補足とお詫び | Main | 「アジアの変貌」にイラクアート »

August 26, 2007

壊された日常のかけら~モースル情勢について~

引き続きサラマッドのメールからイラク現地情勢について。

北部モースルの治安状況もひどいようだが、宗派主義暴力の吹き荒れるバグダードとはまるで違うという。スンナ派が中心のモースルでは、宗派間暴力は非常に少なく、米軍、イラク軍、警察、クルド人民兵ペシュメルガに対する攻撃がほとんどのようだ。

そして反米抵抗勢力ではアル・カーイダの勢力が増しているようだ。高等教育を受けた人ですら今では公然と支持を表明してはばからず、モースルの3人に1人は支持者ではないかという。かつてはアル・カーイダに反対していた一般市民の多くも、今ではニュースで現政府のひどい仕打ちが報道されるたびにアル・カーイダ支持に傾いてきているようだ。

アル・カーイダを名乗る数人から聞いた話によると、周辺国から来ているメンバーもいるが、多くはイラク人で構成されている。主に金銭面で支援しているというそのうちの一人は55歳の元イラク軍の幹部で、現政府と米軍とペシュメルガを憎んでおり、彼らを殺害するのは当然だと言い放っていた。またその彼は厳格なイスラーム法による国家が必要だと説き、世俗的な人間は容赦しないと言って、今は息子達に自爆攻撃をさせることすら厭わず訓練に励んでいるという。

アル・カーイダと言っても、国際テロ組織として世界的にブランド化した名前を騙っているだけかもしれないし、その3人に1人と言う数字も根拠はよくわからない。ただ少なくともアル・カーイダを名乗るものが多くなっていて、彼らを支持している市民が急増していると言うのは間違いないようだ。

その背景の一つとして、状況の悪化からモースルの市民の多くが心のよりどころをイスラームの教えに求めていることを挙げている。女性の多くが頭髪を隠すヒジャーブを被り、顔も手も全て隠す人も増えていて、とにかく規律を厳密に守る人が急増しているというのだ。もちろんイスラームでは殺し合えと教えているわけではないので、以前はアル・カーイダなどむしろイスラームの印象を悪くすると嫌われてすらいた。しかし今では、市民の多くが米軍とそれに追随する者たちを激しく憎むようになってしまい、結果的にアル・カーイダはとてもいい場所を見つけてしまったようだという。彼が行くモスクにも礼拝のある金曜日になると宣伝ビラを配る男が立っているという。

以前はとても世俗的な国家で、アル・カーイダなどとは無縁だったイラク。対テロ戦争の結果がこれだから、全く皮肉としか言いようがない。

また、サッダーム人気も凄まじく、彼は殺されてからむしろここでは殉教者として称えられているそうだ。多くの壁には彼を英雄として賞賛する落書きで溢れ、現イラク政府側の警察官からすら彼を懐かしむ声をよく聞くという。

ところでモースルではここ最近外出禁止令が出ているという。8月14日、シンジャールという140km離れた町で起きた大規模自爆攻撃のせいだ。500人以上殺されたとの報道もある。(関連記事)イラクの少数宗派のひとつ、ヤズィディー教徒が標的になったという。イラクにはこうした少数宗派が数多く存在していて、これまでは平和裏に共存していた。そういえば昨年9月にアルビルを訪れたとき、道を案内してくれたおじさんから、「私はイスラーム教徒ではない。ヤズィディー教を知っているか?太陽に礼拝するんだ」と言われてこの宗教の存在を知った。ゾロアスター教にルーツを持ち、イスラームやキリスト教の神秘主義の思想などが混ざり合っているともいわれる。

米軍とイラク政府はいつものようにアル・カーイダの犯行だと言う。報道も相変わらずろくな検証なしにそれをなぞるだけである。しかし友人によると、シンジャールの人々の多くはイラク政府の仕業だと言っているようだ。事実はわからないが、モースル周辺では政府発表など信じられていないということはわかる。

故郷イラクの変わり果てた状況に絶望していたサラマッド。「ただ、ここモースルではバグダードと違って盗みなどは珍しく、一般市民同士はとても誠実にやりとりしている」と付け加えていたのがせめてもの救いだった。

|

« 前回記事の補足とお詫び | Main | 「アジアの変貌」にイラクアート »

Comments

ムスリムは異教に大変寛容な信徒だと思います。欧米で数世紀にわたり迫害された多くのユダヤ人がアラブ文化圏を安住の地としてきたことは事実です。そもそもイスラム教はキリスト教以上に寛容なんですから、宗教的迫害やテロはありえません。アルカイーダも欧米の非イスラム教徒が内乱を工作するための武装組織を政治的に(予算を組んで)作り出したものとしか考えられません。アルカイーダのコンセプトはイスラム法に反していますし。アルカイーダを使ってゆがんだ世界観を私たちに信じ込ませようとしているとしか思えません。イラク人も信じている人が増えているなら、アメリカの今回の「ファントムアタック作戦」は間違いなくイラクを深刻で生きる希望のない内乱化状態に陥らせるのに成功したと言えます。これも石油法採決が国会でボイコットされた報復でしょうか。

Posted by: とりちゃん | August 27, 2007 at 09:26 AM

とりちゃんさん、

もはやある種のブランドと化したアル・カーイダという名前がいたるところで騙られていて一人歩きしているような気がしています。

Posted by: yatch | August 27, 2007 at 11:32 PM

エマージェンシー!です。
イラク南部にコレラが発生した模様です。
インディペンデント紙が伝えました。
http://news.independent.co.uk/world/middle_east/article2914413.ece)

Posted by: 田仁 | September 01, 2007 at 12:13 PM

田仁さん、ありがとうございます。リンクが外れているようでしたが、調べると南部ではなく、北部クルド人自治区の都市スレイマニヤの医師からの支援要請を基にした記事のようですね。これまでもコレラ発生のケースは聞いていましたが、比較的安定していたクルド自治区で急増していると知って驚きました。モースルではどうかも聞いてみます。

Posted by: yatch | September 02, 2007 at 11:04 PM

済みません、大雑把な性格なもので、(大筋は合ってるので)細かい間違いを許してください。

Posted by: 田仁 | September 03, 2007 at 06:08 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/44849/16239286

Listed below are links to weblogs that reference 壊された日常のかけら~モースル情勢について~:

« 前回記事の補足とお詫び | Main | 「アジアの変貌」にイラクアート »