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December 28, 2006

燎原の火

バグダード、ドーラ地区のある友人から先日届いた報告を紹介する。

跳梁跋扈する民兵、とりわけマハディー軍の乱暴狼藉はもはや歯止めがきかない。市民の誘拐、拷問は、今や男性に限らず若い女性までにも及び、強姦の末に殺害するというケースも増えてきた。特にスンナ派の各組織はこの暴力を止める力のない政府は全くあてにならないので各々自衛するようにと声明を出している。内戦というより完全なる無法状態だ。

小学校の先生をしている母親は、朝学校に行くと胴体の上に切り落とされた首が載せられている遺体を発見して自宅に戻って以来体調を崩している。中学生の妹は、あるグループが4人を学校の校庭に連れてきて生徒の目の前で処刑してからもう2週間も学校に行っていない。商店主の弟はギャングに命を狙われていて、間違って隣の店の店主が殺されてから自分の店に行けていない。これはもう店をたたむしかないと、店員に頼んで商品だけでも引き上げようとしたが、その店員が人質に取られてしまった。父親が護衛を引きつれ交渉に挑み弟が命を狙われるに至った誤解を解いて店員もなんとか無事解放されたものの、腹いせかギャングは行きずりの人間を撃ち殺し店に放り込んだ。弟は商品も全てあきらめて、父親は恐怖から胃から血を吐き続けている。

ドーラは元々バグダードでも最も戦闘が激しい地域のひとつだった。ところで私が戦争中「人間の盾」をして滞在していたのもここドーラの浄水場だったが、先日はその浄水場近くの発電所に40台ものパトカーが押し入り、大勢の従業員が拉致されどこかへ連れ去られたという。友人によるとここのところはもう毎分のようにあちこちから銃撃音が響き、路上には首のないシーア派民兵の遺体が散乱し、自警団でもある戦士たちは米軍と警察に対する路上爆弾をせっせと敷き詰めていて、誰も地域の外に出られないので食料の価格が高騰しているという。断続的に響く爆破の衝撃音で家は揺れ続け、日によっては他地域から飛んでくる迫撃砲弾に備えるため一日中階段の下ですごさなければならない。何とかドーラから脱出できないかと聞くと、もし今出たら戦士たちに戦闘のためにと家を使われて破壊されてしまうし、そうじゃなくても各地域からドーラに逃れてきた人たちに奪われてしまうだろうと言う。しかしなぜそんな危険なドーラに人が逃げてくるのか?バグダード市内のスンナ派とシーア派の住み分けが進んだ結果、かつて両派混在地域だったドーラは今やスンナ派でいっぱいで、他地域のスンナ派住民にとっての避難所になっているそうだ。今ドーラを出たら間違いなくすぐ殺されてしまうだろうとも言う。このように、バグダードで今やスンナ派住民の生き延びることのできる場所はどんどん狭められている。もう家族の誰も働きに行くこともできず、これまで蓄えていた資金で何とかつないできたが、このままではいつまで持つかわからない。友人は最も危険なドーラでまともに生活することができず、かといって脱出することもできないまさに八方塞の情況だ。

そんな中、情況が変わってきたとまた友人から連絡があった。バグダードをはじめイラク各地でマハディー軍に対する攻撃が激化してきたようだ。何でも多くのシーア派政党がナジャフのシーア派権威シスターニを詣で、マハディー軍を叩くためスンナ派とシーア派の共闘の許可を秘密裏に得たという。それ以降、米軍とイラク軍はサドルシティーなどマハディー軍の拠点に対する攻撃を本格化させているらしい。それはサマーワでも同様で、最近警察とマハディー軍の激しい戦闘が繰り広げられているそうだ。ちなみにサマーワの警察はシーア派政党イラクイスラム革命最高評議会党首アブドゥルアジズ・ハキーム師率いる民兵バドル旅団が全面的に支援している。バスラでも英軍が警察と共に多くのマハディー軍を捕まえているようだ。

しかし友人は憤りをこめてこう続ける。マハディー軍は一年以上暴虐の限りを尽くしイラク人を殺しまくっていたのに、これまでシスターニも政府もまるで動こうとしなかった。しかし先日ペンタゴンのレポートで、今やマハディー軍はアル・カーイダより危険だと発表され、連中の暴走を止めよと決定されるや否や、連中も現在の地位を失いたくはないから動き出す。ああいう指導者なんてイラク人の命など全く眼中になく、ただ自分の地位を維持することしか考えていないイランの犬であり犯罪者だ。全く、これが新しいイラクだってさ!!!

仮にマハディー軍が潰されていくとしても、権力に群がる連中の醜い椅子取り合戦が続く限り、このイラクの地獄は終わらないだろう。それでも少しでも友人たちの安全につながるような変化になればと祈りを続ける。しかしイラクの周囲を見渡せば、最近のレバノン政治混乱による市民社会の分裂、パレスチナの内部衝突、そしてサウジなど周辺諸国がスンナ派武装闘争への支援をほのめかすなど、イラク内戦の業火が飛び火して中東全域に拡大するのではという悪夢にうなされる。この燎原の火につながるイラク攻撃と占領という火種を放った米英、そしてその放火魔を支え続けて自らの罪を省みもしないこの日本の責任はいよいよ重い。

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Comments

まったく日本の社会運動状況から離れてしてしまったイラクの現状ですね。日米安全保障問題に関わってきた人たちからすると、一部には「遠い国の出来事」と勘違いする人たちも少なくないと思います。これをどう繋げていくかは、企画者の「常識を逸脱するセンス」と人脈にかかっています。あとは、一方向からの情報に頼りすぎると、かつての『バース党追従』問題と同じような轍を踏みますよ!

Posted by: wattan. | December 29, 2006 at 10:03 AM

YATCH 重いニュースが日々国内外からたくさん入ってきます。

それに比べて日本国内での政治家の軽くくだらないゴシップ系不祥事の数々。

これがわたしたち国民と呼ばれている人たちが選んだ国の責任者・代表者たちなんです。

「美しい…」「愛の…」

本当の意味を知らずに使っているとしか思えない貧弱な表現。

『真の愛は心の力と感謝の気持ちから生まれる』

『継続は力なり』

そんなことを自分に言い聞かせながらいろんな立場での自分の責任を果たして行きたいと思っています。

YATCH 、YATCHの優しい笑顔に会えてほっとすることいっぱいあります。

厳しい現実ですが、笑顔を大切にしながらみんなで勇気を持って想いを伝えて行きたいですね。


Posted by: kero | December 29, 2006 at 10:18 AM

wattanさん、

wattanさんの「常識を逸脱するセンス」と人脈に激しく期待しています。一方向からの情報?ご心配なく。先だってもシーア派の友人からの話を紹介したように、イラキーの友人はいろいろです。まあ確かにシーア派民兵の友人はいませんが。wattanさんの人脈で今度ぜひ紹介してくださいね!

keroさん、

わたしもkeroさんがいつも変わらない笑顔で活動を支え続けてくださることで何とか続けていくことができています。イラク戦争の前後からこの問題に関わっていた多くの人々が身を引いていく中、たとえ少なくなってもkeroさんをはじめ支えてくれる人々がいることは大変ありがたいことです。私はイラクの人々に命を救われた身ですので、自分なりの大きな責任を自覚して関わり続けております。今は本当にしんどい時期ですが、これからも共に支えていきましょう。

Posted by: YATCH | December 29, 2006 at 12:03 PM

はい ( ^ 0 ^ )//

Posted by: kero | December 30, 2006 at 06:11 PM

フセイン大統領の死刑執行に関してコメントをいただけないでしょうか。

Posted by: マサガタ | December 30, 2006 at 08:27 PM

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