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November 10, 2006

サッダーム死刑判決に想う

サッダーム・フセイン死刑判決、アメリカ中間選挙での民主党勝利、ラムズフェルドの更迭と、今週は立て続けにイラク関連問題が新聞の一面を賑わせた一週間だった。一日平均100人以上ものイラクの人々が殺されていくという深刻な情況に反比例して、イラク関連報道は減少する一方だったので、久しぶりに新聞一面を飾ったサッダームの姿に、ある種郷愁にすら似た奇妙な感慨を覚えてしまった。死刑判決自体は誰もが予想していたことであろうし、結果的に効果はなかったにせよ、アメリカ中間選挙にあわせてブッシュ政権がイラク戦争の成果を示すための政治的意図が介在したひとつの見世物であることも間違いないであろう。

ところでEU諸国などは原則論からこぞって死刑の反対を訴えている。私も死刑、戦争を含め、あらゆる殺人に反対の立場から今回のサッダームの死刑判決には反対ではあるが、そもそもこの違法な占領下で設置された法廷そのものが茶番であり無効であると考えているので、ここで死刑判決に反対を訴えることは逆にこの裁判自体を合法と認めることになってしまうのではないだろうかとも思う。メディアはここで今一度この裁判そのものの合法性を問い直すべきではないだろうか。まあ開戦の理由である大量破壊兵器保有疑惑を米政府の広報機関よろしく一大キャンペーンを張って報道しておいて、いざそれが実は存在しなかったとわかってもこれまでの自らの報道を反省はおろかろくすっぽ検証すらしていないわけだから、今回もまたむべなるかな。

それにしてもアメリカは大変な茶番劇を拵えてしまったものだと思う。アラブ諸国ではこの裁判の様子をテレビで観ることが出来るが、いくらアメリカにとって都合の悪い発言などをカットしたところで、サッダームの姿がブラウン管に映し出されるたびに、溜飲を下げる人間以上に、逆にサッダーム支持者が増えて反米感情も高まっていっているように感じていた。悪化する一方のイラク情勢を嘆き、「サッダーム時代のほうがよかった」という懐古の声が現地では急速に増えているということはこれまでもたびたび紹介してきたが、前回のイラク北部&シリア、ヨルダンの旅で友人などから話を聞く限りそれは変わらず、むしろさらに高まってきているという印象を受けた。そういえば、サッダームの小説が日本での翻訳出版以外では発禁になっていること自体も彼の影響力の大きさを物語っている。

報道では紋切り型にサッダームの死刑判決について歓喜するシーア派と反対するスンナ派の様子を切り取って伝えているが、私の友人のイラク人の一人はシーア派なのに堂々とサッダームを擁護しているし、実際の住民感情はシーア、スンナで割り切れるほど決して単純ではない。皮肉なことに、サッダームの過去の悪業も、それをはるかに凌ぐ悪業によって捕らえられ裁かれている結果相対的に希釈されてしまい、また、ただ一人毅然として立ち向かうサッダームという一人の人間の姿が、それを見る人間に新たな同情の念すら生み出しているようだ。

ここでもしサッダームの死刑が執行されたら、イラクの混乱は取り返しのつかない情況に陥るのではないか。イラクの安定を考えれば、これは執行が不可能な判決ではないか思う。しかし執行しなければそれはそれでまた不安定要素のひとつでもあるというジレンマ。今日のイラクの混乱の元凶は米軍の存在そのものなのだが、ここまで治安が悪化した以上、即時撤退もまた出来ないというジレンマと非常によく似ている。

さて、アメリカ中間選挙の結果を見る限り、アメリカ国民の多くがようやくイラク戦争の現実に気づいたのかもしれない。更迭されたラムズフェルドは「始めはよかったが・・・」と言うが、彼が最も恍惚としたであろうあの首都陥落以降が本当の意味での戦争の恐ろしさなのだ。ベネズエラの大統領チャベスも言うとおり、ラムズフェルドがやめるならブッシュをはじめ閣僚全員が辞職すべきだし、人道に対する罪でサッダームを裁くならば、65万以上とも言われるイラクの人民と、2800人以上という9・11の犠牲者にも匹敵する米兵を殺害したブッシュもやはり同様に人道に対する罪で裁かれなければならない。違法な先制攻撃を支持し、共に占領という犯罪に手を染めた共犯者である前日本国首相小泉、そして彼を結果的に支えてきた私たち日本国民と共に。

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