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July 13, 2006

ワールドカップとマハディー軍

先週の話になるが、しばらく連絡が滞っていたイラクの友人の一人からやっとメールが届いた。彼自身は無事だとのこと。しかし、やはり全体的には全てにおいて状況は悪化しているようだ。

「今やここイラクでは誰一人として普通の生活を生きることが出来ていない。水もガソリンも灯油も、もう何もかもが足りないよ。電力事情はどんどん悪くなっていて、もう最悪。特にサッカー好きのイラク人にとっては、テレビでワールドカップもろくに観られないし、ホントたまらないよ・・・」

先日イタリアの優勝で幕を閉じたワールドカップサッカー。中学時代はサッカーに燃えた日々を過ごした自分も、やはりワールドカップがはじまると血が騒ぐ。今回も日本戦のみならず決勝トーナメントはほとんどの試合を観戦したので、国内にいながらにして時差ぼけ状態だった。ちなみにイラク人は大のサッカー好きである。3年前の米軍侵攻時ですら戦況が一段落するとサッカーに興じるちびっ子たちがいて驚いたものだ。しかし一日数時間しか電気が来ない状態では、ワールドカップ観戦どころではないだろう。(他にも放映権の問題で限られた人しか観られないという報道もあったが)

「町中どこに行こうが銃声が聞こえるんだ。誰が撃ってんだかわかりゃしない。米軍、警察、イラク軍、マハディー軍(シーア派ムクタダ・サドル率いる民兵)、ギャング、酔っぱらった狂人・・・。先日は近所で一時間以上も銃撃戦。しかも早朝4時。とても眠れたもんじゃない。後で知ったけど、それは米軍とマハディー軍との戦闘だった」

ちなみに彼はバグダードのシーア派地区のカズミアに住んでいる。どうしても自分の友人はスンナ派が多いので、これまで寄せられた情報はスンナ派の見方に偏っているのだろうかとも思っていたが、やはりシーアの友人の置かれた状況も同様に深刻である。

「とにかく僕自身は大丈夫だし、家族も問題ない。昨年、妹がある暴力行為に巻き込まれて殺されたこと意外は・・・。これについてはこれ以上何も話したくはないけど、ただ、聞かれたことにはちゃんと答えなきゃね」

彼とは戦争前からの付き合いだ。これまでも友人の知人、友人の友人が殺されたという話はよく聞いてきたが、最近はついに友人たちの家族にまでその死の足音が及んできている。何ひとつ言葉が見つからないままに、そのまんまの気持ちで返信すると、

「大丈夫、気にしないで。イラクで死はとても普通のことになっているから・・・」

「ひとついい知らせがあるんだ。数日前、人文科学の修士号を取得したよ。そして大学の教授になる資格を得たから、きっと文学の翻訳など教えることになると思う」

日本のアニメが大好きだという彼と戦前に「ドラえもん」の話で盛り上がったことを思い出す。当時から、漫画家か、文学に携わる仕事がしたいといっていた。こんな状況の中でも夢がひとつかなって、嬉しい限りでもあるが、昨今イラクでは大学教授や医者などの知識人が誘拐、殺害が相次いでいることを考えるとやはり心配にもなる。(2003年からすでに医師が約300名、科学者が約100名、大学教授は80名以上が殺害されている。)

「追伸:サッカーの日本対ブラジル戦は素晴らしかったよ。特に前半のあの先制ゴール。あんな素敵なプレイを観られて、ホント嬉しかった・・・」

全く、どこまでも日本贔屓なやつである。そういえば自衛隊派遣に関しても、「だって武器を持ってきたら、抵抗勢力にとってはどう見たって敵だよ。一人でも日本人が殺されるのは見たくないんだ・・・」と言って最初から反対していた。

サッダームを追い出してくれたからと言って、しばらくは米軍の駐留を肯定していた彼も、先日お知らせした「アメリカにイラクにおける暴力を止めることを求める緊急嘆願書」を紹介すると、「これは素晴らしいことだ。友達にも伝えたよ。何らかの効果があることを願う」と言って、早速署名してくれた。

ところで先ほど話にも出たマハディー軍はここのところもっぱら評判が悪い。もはやムクタダ・サドルのコントロールは効かないのだろうか。それともサッカー嫌いと噂されるムクタダが、ワールドカップの熱狂に切れて暴発しているのかとすら思ってしまう。つい最近も、サドルシティで起きた爆弾テロやシーア派モスク爆破などへの報復と見られるスンナ派住民への大量銃殺事件が起きたばかりだが、ドーラ地区に住む現地スタッフの弟からの連絡によると、マハディー軍はハイ・アル・ジハード地区で50人以上殺害した後、警察、そしてイラン人までいっしょになって、アダミア地区、そしてドーラ地区にも攻撃を仕掛けようとしているということで、ドーラでは武装した若者たちが自警団を組織して道路を封鎖しているようだ。フランスから兄が携帯に電話すると、もう一人の弟と二人でちょうど屋上で見張りをしていたらしく、今ドーラはあの3年前の米軍侵攻時以上の緊張に包まれていると言う。両親はモスルに、妹たちはバグダード郊外の祖父の家に避難している。兄は4、5時間おきに電話をかけて、弟達の安否を確認している。

やはりこれではとてもワールドカップどころではない。

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Comments

>イラクでは死はとても普通なことに…

命の重さは世界どこでも同じであるはずなのに違うというのが現実なのですね。日本では殺人事件が起きるたびに大騒ぎとなりますが、イラクでの悲惨な状況はほとんど報道されない現実。とても悲しみを感じます。

死が普通な社会は異常すぎると思います。

Posted by: peaceforearth | July 14, 2006 at 10:34 PM

peaceforearthさん、

「死」そのものは「生」がある限り切り離すことができないので、いつどこであろうが我々は「死」から逃れられないわけですけれど、この文脈での「死」はまさに「殺されること」ですから、本当に異常な社会になってしまったと思います。

異常が普通になってしまう、これがまさに戦争ですが、そうした報道にも慣れていって感覚が麻痺してしまい、目の前で人が殺されない限り異常を異常とも思えなくなって、こうした世界の異常を普通なことととらえて日常を営んでいく社会もまた、ずいぶんと異常になってしまったような気がします。

Posted by: YATCH | July 15, 2006 at 04:22 PM

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