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June 17, 2006

鏡の国のザルカウィ

「ザルカウィ死亡?」の一報は四国行脚の初日、高松空港の到着ロビーのTVニュースで知った。本当か?と思いつつも行脚中は連日立て込んでいた上にどうもネット通信環境が悪かったのでなかなか関連情報をフォローできず、今更ながら帰京してからやっとまとめてニュースに目を通すことが出来た。ここ最近イラク駐留米軍のイラク市民に対する虐殺の疑いが次々に出るなど、米政府の評判がかなり落ちていたところでのこのサプライズなので、タイミング自体はまさに演出したとしか思えないのだが、彼がイラク中部のバクーバ近郊で米軍とイラク軍の攻撃により殺害されたということはどうも間違いないようだ。

彼の存在がイラクにおいて特に注目されだしたのは2004年4月のあの邦人人質事件以降であるが、当時から現地でイラク人に彼の存在のことを聞くと、「ザルカウィなんて攻撃正当化のために米軍が作り出したストーリーだ」という答えが返ってくることが多かった。(参考まで拙ブログ:2004年11月米軍によるファッルージャ総攻撃時のザルカウィについてのイラク人の声) 

私も、仮に彼の存在、特にイラクでの活動自体は事実だったとしても、報道されていたザルカウィ関連情報をそのまま信用することは出来ないだろうと思っていた。米軍が自身の軍事攻撃を正当化するため、そして反米抵抗勢力全体の印象を悪くしようとするネガティブキャンペーンとして、彼の脅威を誇張していたか、もしくは、反米抵抗勢力側が米軍を混乱させるための情報撹乱の一手段として、いわばブランドとして「ザルカウィ」や「アルカイダ」という名を濫用していたのではないか、と。

2004年10月に香田証生さんを殺害したグループもザルカウィ系とは言われていたし、今年になって殺害実行犯の一人がそうだと自供したというが(拙ブログ参照)、果たしてそのグループにどこまで彼の指揮命令系統が行き届いていたのかはいまだによくわかっていない。そういえば当時香田さんの救出に向け動いていたとき、犯行グループと接触できるかもしれないと協力してくれた友人も、連中とザルカウィとの直接の関係はないはずだと言っていた。(拙ブログ参照

さて、そのとき協力してくれた友人とは、先日の日記「変化」の最後のほうでも少し紹介した。先日イラクでのミッションを終え帰国したばかりとの一報を受けほっと安堵していたところだったが、このザルカウィ殺害にヨルダン治安当局の情報が役に立ったとの報道に、これは彼が何らかの形で一枚噛んでいる可能性もあるなと思った。

イラク戦争中初めて出会ったときは、彼はヨルダン軍を抜け出し米軍と戦いにきたイスラム義勇兵だったが、昨年のアンマンでのホテル連続爆破テロの巻き添えで親友を失い(拙ブログ参照)、ザルカウィへの復讐を誓ってヨルダン治安当局へ情報を提供するようになった。もちろん義勇兵はとっくにやめていたし、ザルカウィのグループに所属していたわけでもないのだが、過去の義勇兵つながりで何らかの情報は持っていたのだろう。そしてこの度ついにはイラクで米軍と活動を共にしてきたばかりなのだ。

もちろんだからといって彼の情報が決め手になったかどうかまではわからないし、彼のミッションの全容もわからないが、ここ最近イラクでの修羅場を潜り抜けてきた彼からの情報には興味深いものが多いのでいくつか紹介したい。

~米軍との共同作戦から~
・いわゆる対テロ作戦で最前線に送られているのはほとんどが外国人の傭兵であり、米兵は非常に少ない。
・提供された情報に基づき家屋を急襲させ容疑者を捕らえ最後に米兵が尋問するが、最終的に容疑者がいわゆるテロリストではなく過去サッダームの軍隊にいた今は貧しい人間だとわかると、米兵は彼らにカネを渡している。
・米軍はイラク人の反抗的市民にカネを渡すなど援助して殺人、爆破、誘拐などのテロ活動を煽りたて、イラクの混乱を生み出し、「イラクには米軍が必要である。さもなければお互いが殺し合いやがて内戦になるだろう」という印象を、イラク人に、そして世界中に与えている。(以上は彼の見解であるが、米兵が金銭を渡しているというのは補償という意味もあるかもしれない。いずれにしてもイメージアップキャンペーンには違いないが)
・米軍は我々を最終的には最前線に置き去りにして裏切った。(お前イラク人を殺していないだろうなという質問に)それは誓ってやってない。むしろ民間人を殺そうとした米兵を殺そうかと思ったくらいだ。

~ザルカウィ殺害に関して~
・ミッションは成功したので、殺された友人も墓の中で喜んでいると思う。
・とはいえやはり彼の最後は気の毒に思った。12年以上前、まだテロリストになる前の彼を個人的にしっているから。とてもいい奴だった。
・最終的に彼は米軍の攻撃ではなくイラク兵に殺された。
・ただしこれは決して終わりではなくむしろ始まりである。100万(1,000,000millionと書いてあったが)もの新しいザルカウィが生まれ、ここヨルダンが彼らのテロ攻撃のターゲットの中心になる。ヨルダン治安当局は、米軍のザルカウィ殺害作戦にヨルダン治安当局が協力したと発表した。バカだ。まさに新しい地獄への門を開けてしまった。今すべての新ザルカウィが報復したがっている。これは連中の最大の失敗だと思う。

以上、誇張もあるが、私もザルカウィの殺害は治安安定にはむしろ逆効果なのではないかと思っている。彼の指揮命令系統が及んでいた範囲よりも、単に彼の思想に共鳴して独自に活動していた連中が多かったとすれば、彼の死はいわば殉教者として英雄視されてしまい、今後ますます攻撃が激しくなっていくのではないかと危惧する。先日来日したイラク人カメラマン、イサーム・ラシードさんも同様の意見を持っていた。

なお、イラクの友人からのメールによると、ヨルダンの親族やパレスチナのハマスの一部でザルカウィを殉教者と崇める動きがあるらしく、それに対し多くのイラク人が憤慨していて、ヨルダン人やパレスチナ人に対する殺意をむき出しにする輩まで現れているという。また、TVでは彼の殺害に喜ぶイラク人が映し出されているようだが、そんな様子を見て友人は苦笑する。

「あのザルカウィが消えれば今度は100のザルカウィが来るよ。あんなのただの記号にすぎない。連中の爆破テロなんて今更だれが気にする?あんなの水を飲むがごとく普通のことになってるんだよ。今の心配事、普通じゃないことは、突如として家に押し入り拉致し拷問の末に殺して道端に捨てていくあの民兵連中なんだ。だって爆破テロは家でおとなしくさえしていれば大丈夫だけど、バドル旅団などの民兵連中にかかったら家にいたって全く安全じゃない・・・。今回のザルカウィの件は、ただMr.Dog(ブッシュ)とイラク新政府にとって使えるネタなんだと思う。こうした宣伝が必要だったのさ。ブッシュはあの後「戦争はまだ終わったわけではない、ザルカウィの後継者を追跡する・・・」なんて言ってるし、新政府は、「殺害現場からザルカウィがアメリカとイランの関係を悪化させ戦争状態にもっていこうとしていたことを裏付ける貴重な資料を発見した・・・」ときたもんだ。今本当に深刻なのは民兵による拷問殺人(2006年以降バグダード市内だけで6000体が遺体安置所に運ばれた。5月は1400人で過去最悪)なのに、この件に関して新政府は全く言及してない!」

そして今度はバグダードで4万人以上も動員して米軍とイラク軍による過去最大規模の武装勢力掃討作戦が開始されたという。全くこれまでこうした作戦を繰り返すごとに無辜の民が犠牲となり、米軍への憎しみが募り反動としての暴力が各地に飛び火して全体としての治安がますます悪化してきたということをどうして学習しないのだろう。いったい米軍は何がやりたいのか。やはり恒久基地建設を目指し駐留延長を正当化するために、こうしてわざと治安を悪化させようとしているとしか思えなくなってくる。陸上自衛隊がサマーワから7月中にも撤退かとも報じられているが、このままではまたずるずると延びていくかもしれない。

最後にもうひとつ。高遠さんとプロジェクトを共にするラマーディの友人からの知らせによると、彼の兄が交通事故にあい、病院に運ばれる途中に米軍の検問に阻まれて命を落としたという。こうしてまたあちこちで米軍への民心は離れていく。

ザルカウィによって行われたという残虐行為は全て、これまでイラク戦争と占領という巨大な暴力によってもたらされた幾多の残虐行為と鏡面関係にある。ザルカウィ殺害に嬉々とする輩の心そのものが、ザルカウィを生んだ狂気を合わせ鏡のように拡大再生産していくという道理を学ばない限り、この悪循環は止まらないだろう。テロリズムとは、鏡に映しだされた我々の恐怖心そのものだ。

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Comments

やっち、四国行脚、お疲れ様です。ところで僕は、ザルカウィって組織があるものかと思っていたんですが、あれって完全に個人名だったんですか?そしたら僕の勘違いですね(_ _,)/

Posted by: momoi | June 18, 2006 at 05:01 AM

momoiくん、

まあ個人のようですが、いろいろそれらしい名をかたって跳梁跋扈していたようなので勘違いしても不思議じゃないでしょう。今のイラクにいる人々にとっては、他の問題のほうが大きくなりすぎていてもはやどっちでも大差ないかもしれません。

Posted by: YATCH | June 20, 2006 at 11:59 PM

ヨルダン当局関与との米軍発表の件は、スルーするには余りに大き過ぎるのでは?
ヨルダンもご存知のとおり、首相暗殺以来、「ニュー・グランド・ゲーム」の大きな局面です。

Posted by: 田仁 | June 23, 2006 at 06:38 PM

田仁さん、

ええ、今のところ何もないようですが、その後の連絡でもヨルダンの友人は相当に心配していましたし、もちろん注視していきます。

Posted by: YATCH | June 24, 2006 at 09:38 AM

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