アンマンにて無事活動中
予定通り20日夕方無事アンマンに到着。(到着まではスタッフ高瀬香緒里のブログ参照)いきなり立て込んでネット接続もままならず、ブログの更新が遅れてしまった。
ホテルにチェックインするといきなり現地スタッフ夫妻が現れた。出発前5日ほど連絡が途絶えていたので、ひょっとして現地で何かあったのではと思い、果たして無事にヨルダンまで出てこられるのだろうかと心配していたので一安心。国境では12時間も待たされてしまい風邪をひいてしまったようで、病院から薬をもらってきたばかりだと言っていたが元気そうだった。
聞くとやはりイラクの状況、とりわけバグダードに関してはもう「最悪」というほか言葉が見つからない。先月、彼等が4ヶ月ぶりにフランスから帰ったとき、そのあまりの変わりように「もうこの国のためにどうしていいかわからない」と疲労と困惑と絶望が入り乱れたメールが届き私も言葉を失った。そしてこの度彼らの口から直接話を聞いて、改めてその状況の深刻さを思い知った。
インフラ、特に電気事情は相変わらず悪化する一方で、ひどいときには一日中でたった1時間しか来ない日すらあるという。復興の予算のほとんどがこうしたインフラ整備ではなく治安維持(とはいっても一般市民ためではなく政府の要人警備がほとんどだが)に消えてしまい、求人といえばもう警察くらいしか聞かなくなったらしい。そして皮肉なことには、今では米軍が来たほうがむしろ安心するというほどにイラク警察や国家警備隊、そしてシーア派のバドル軍やその直属の民兵集団など、他にも新たに組織された様々なグループが跳梁跋扈し、家宅捜索と称して乱暴狼藉を働いていて、盗み、誘拐、拷問、殺人なんでもありの無法地帯と化してしまっているようだ。すぐ隣近所でも誘拐や殺人は日常茶飯事になり、そのような話を聞いてももうあまり驚かなくなってしまったとも言う。連中は天井を突き破って侵入してくることが多いので、皆一階で眠ったり大切なものは全て地下に隠したりと自衛策を取っているものの、とにかく恐怖の日々だそうだ。以前も書いたが母親は心臓発作で苦しみ、妹も学校が休みの間3ヶ月ほど怖くて全く外出も出来ず、そのストレスからすっかり体調を崩してしまい、父親も狙われていたこともあり、もう一家でバグダードを出ようとも話しあっていたが、ここを離れないと言ってがんとして譲らない父親を残していくわけにもいかず、また避難したところで親戚などの住んでいるところはどこも危険なので、もうどうしようもないという。
そしてやはりある程度お金のある家族は次々とイラクから出国しているようだ。ここアンマンにもたくさんのイラク人が避難していている。ホテルにもこれまでになく家族連れが多く泊まっているなあと思いきや、聞けばやはりイラク人家族。大量の荷物を車に縛り付け、これから一家でエジプトに移り住むという。バグダードのサイディア地区からきたそうだが、ファッルージャにいた父は殺され兄は行方不明。また知人の多くが拷問の末惨殺され変わり果てた姿を何度も目にしたと言っていた。ファッルージャは相変わらず入ることすら困難で、一度は帰還した避難民ももとの家には住むことが出来ずに、今度はイラクそのものから避難せざるを得なくなっている人も多いらしい。一家のお父さんは「イラクはもう滅茶苦茶だ。サッダームのような指導者がもう一度現れない限り、もう十数年は戻れないだろう。」と言っていた。
ちなみに最近ではこのように、サッダームの時代のほうが今よりはるかによかったと言う声が圧倒的に増えているようだ。当時は彼のことさえ悪く言わなければよかったが、今では誰がどこでどうつながっているかわからないので、アメリカや政府のことを悪く言っても、抵抗勢力のことを悪く言っても、どちら側からも命を狙われる恐怖が付きまとい、表現の自由ですらサッダーム時代のほうがましだったとも聞いた。
アンマンに着いた早々こうした家族と出会ってしまうところに、今のイラクの状況が表されている。
いつもこうした話を聞くたびに、これまで自分がやってきたことの小ささと、現実の大きさとの、あまりの乖離に圧倒され、どうにもこうにもやりきれなくなってしまう。そんな中、いつの間にすっかりと仲良くなってしまったちびっ子達からは「記念にあげるね」とおもちゃまでもらってしまった。いつもちびっ子達のあの屈託のない笑顔には救われているが、相変わらず彼等にはもらってばかりだ。現地スタッフは、「もう希望はほとんど見出せない」とも言う。しかしこんな中活動を継続してくれている彼らの存在そのものが、私にとっては希望のひとつでもある。
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Comments
ヤッチ、アンマン到着ご無事でなによりです。それにしても、もともと豊かな資源をもっていた国が周りの勢力の力ではちゃめちゃになってゆくさまを知ると、本当に世界は限界地点まで突っ走っていることを感じます。日本という国で民営化だ、改憲だと刻一刻とファシズムの匂いを感じさせる日々が続いていますが、それでも欧米や日本といった先進国はなんとか調和を保ってきた、繁栄を手にしてきた先進国の裏ではこんなに恐怖と抑圧の体制が跋扈していたのだなとヤッチのブログを見ていて改めて思います。こうした世界情勢抜きに日本の将来を考えることは不可能でしょう。例えば保守派の論壇ではやれ韓国の竹島がどうのとか、中共の尖閣諸島侵略がどうのとか言っていますが、かれらの思考形態は相変わらず領土争い中心の「信長の野望」のままなのでしょう。実際は先進国の利益は国境などをはるかに飛び越えていて、先進国の大企業の利益のために東南アジアやアフリカの軍事政権や独裁政権が存続しているケースだって当たり前にしてある。第三世界の抑圧が僕らの生活におおいに直結していることをかみ締めて、なんとかこの状況を断ち切る行動を取っていかないと、ますます悪循環が続くことになるでしょうね。
Posted by: ももい | September 23, 2005 08:19 PM
YATCHさん、ご苦労様です。
どうも国家の体を成していない様ですね。
アメリカ政府は、いったい何をしたいのでしょうか?
子供が怒られるのを嫌がって、必死に失敗を隠しているような印象を受けるのですが。
実際は其処に人が生活しなくてはいけなくて、生きて行かなければいけないのですが、何の目処も付けられず、国家予算で膨大な赤字を垂れ流しつつ、こうした事実を隠蔽し続けられると、どの頭で考えているのでしょうか?
相当出来の悪い小学生並みの態度のように見受けられるのですが。(尤も、日本政府の態度は、それ以下ですが。)
アメリカ政府は、大失敗をしました。恐らく、今何の解決方法も持ち合せていない筈です。イラク政府も含めて、他の政府も同様でしょう。
アルジャジーラを含めて、イラクの状況を正しく伝えているメディアはあるのでしょうか?
以前、アメリカ軍の装備再利用の話題が伝えられていましたが、其の話題さえ伝えられない所を見ると、状況が悪化している可能性があるように思います。
最近、アメリカ政府の人間が誰もイラクに行かないのは気の性でしょうか?
破壊された町でイラク人は生活をしなければいけないのですが。
Posted by: Nobody Knows | September 24, 2005 09:10 AM
ももいくん、
ある意味限界地点はとっくに過ぎちゃってるのかもしれません。もちろん正確には誰にも分からないので、断ち切る努力を続けていくしかないんだけどね。
Nobody Knowsさん、
今ラマディではレジスタンスと住民等が協力し合って町を自衛していて、バドル軍をはじめ政府関連の人間は全てシャットアウト。少なくともバグダードよりは状況が改善されてきていると聞きました。やはり以前から聞いていたとおり、地元部族のコミュニティに任せたほうが何事も上手くいっているようです。少なくともイラクを見る限り、政府と名のつくものは全て犯罪集団ですね。
Posted by: YATCH | September 26, 2005 01:30 AM
YATCHさん、ご返事有難う御座います。
>少なくともイラクを見る限り、政府と名のつくものは全て犯罪集団ですね。
ご存知かどうか分かりませんが、日本やその他の国も、見た目や程度の差こそあれ、余り変わらないように思います。
日本も内情は、相当酷いものです。
バドル軍もそうなのですが。宗教や派閥には関係ないのかもしれません。
以前、その様なニュースが伝えられた事を幾つか思い出しました。
Posted by: Nobody Knows | September 26, 2005 10:54 AM
YATCHさん、Blogを汚すようでしたら、すみません。
コリン・パウウェウル氏に、以前(日本政府と共に、違法な?情報収集活動をしている相手に)イラク(特にバクダット)での治安活動の矛盾を指摘された際、矛盾を指摘した相手を「逆切れ」して「ザルカウイめ!」と呼んだ事があったように記憶していますが、現在のイラクでの治安悪化やザルカウイ氏云々の話、自爆攻撃等云々の話等で思い当たる節が何か無いものかとお尋ねしたいものです。
結局、其の指摘の通り治安は悪化し、多くのイラク人とその他の国々の人々(勿論、アメリカ人も含む)が無くなり、現在に至っています。
ご記憶に無いでしょうか?
今度は「仲間はずれ」にはされていないと思うのですが・・・。
本人に話が伝わるようでしたら、聞いてみたい質問です。(私の記憶違いでしょうかねェ・・・。)
Posted by: Nobody Knows | September 28, 2005 02:55 PM
Nobody Knowsさん、
その話はちょっとわかりませんねえ。治安悪化について、基本的に米軍は政府からの情報に基づいて武装勢力の疑いのある家などをろくに調査もせずに破壊したりしているようなのですが、その政府からの情報というのもかなりいいかげんなもので、私怨などからでっち上げられたものなどが多いそうです。
Posted by: YATCH | September 29, 2005 07:24 PM
YATCHさん、ご返事どうも有り難う御座います。
可也お忙しいようですね。
>その話はちょっとわかりませんねえ。
どの話でしょうか?(笑)
確かに、政府からの情報が私怨などからでっち上げられた情報が多いという話は、当初からあったように記憶しています。
発信される情報について、政府(及び軍)が、情報をコントロールをしているという可能性はいかがでしょうか?(発信される情報について、誇張や隠蔽、歪曲したり、一部の人に情報を流したり、流さなかったり。情報を意図的に加工したり、嘘を混ぜたりとか、まったくの嘘をついたりなど。)
返事を頂けて、嬉しいです。
兎に角、大変な様子ですね。
ご苦労様です。
Posted by: Nobody Knows | September 29, 2005 08:21 PM
Nobody Knowsさん、遅れました。
>その話はちょっとわかりませんねえ。
どの話でしょうか?(笑)
パウウェル氏の話です。(ご記憶に無いでしょうか?と問われたものなので、ちょっと覚えてないなあと思いまして)
>発信される情報について、政府(及び軍)が、情報をコントロールをしているという可能性はいかがでしょうか?
可能性どころか、イラクのメディアはもうほとんど政府と占領軍にコントロールされていて事実が伝えられていないというのは、出会ったイラク人の中ではほぼ常識になっていました。直接コントロールされていなくても、利権、または恐怖などからそうなってしまうのでしょう。まあこれはもちろんイラクに限ったことではありませんが。
Posted by: YATCH | October 06, 2005 12:06 AM
YATCHさん
>パウウェル氏の話です。
これは、コリン・パウウェル氏ご本人に、「ご記憶に無いでしょうか?今度は「仲間はずれ」にはされていないと思うのですが・・・。」と尋ねたい、と云う趣旨です。
言葉足らずでした。
お忙しい中、ご返答有難う御座います。
ご苦労様です。
Posted by: Nobody Knows | October 06, 2005 02:31 PM