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August 08, 2004

ヒロシマ・ナガサキそしてイラク アートでつなぐ歴史の記憶

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昨日8月6日は59年目の広島原爆忌。昨年の2月開戦前のイラクを初めて訪れたとき、行く先々でヒロシマ・ナガサキについて口にするイラク人が多かったのには驚いた。また、戦争中は滞在していた浄水場の近所でお茶をご馳走になりながら、「なんで日本はヒロシマ・ナガサキを経験していながらいつまでもアメリカについていき、この戦争の支持までするのか」などと問い詰められたものである。サダム時代の反米教育の一環でもあったとはいえ、59年前に人類史上初めて核兵器が使用され、それがヒロシマ・ナガサキに落とされたことについて、イラク人の大半は知っているどころか、イラクで大量に使用されたウラン兵器の放射能汚染によると思われる白血病などガンの被害と重ね合わせ、むしろ同じ痛み、苦しみを共有しているという意識が強いようだ。

日本平和委員会の布施さんがこの度原爆の被害を伝える白黒写真のパネル十数点を持ってきていて、8月6日にバグダッド大学で簡単な展示をやろうと思っていたようなのだが、今は夏休みで誰もいない。私もこの広島原爆忌に今年はここイラクの地で何か出来ないかと思っていたので、サラマッドなどに相談してみたところ、画家のハニさんが大いに乗り気になってくれて、なんとバグダッド市内のアーティストの社交の場にもなっているヘワーギャラリーにて、アーティスト達のライブペインティングを兼ねた写真展を開催することがあっという間に決まってしまった。6日は金曜でお休みだし人も集まらないということで7日になったものの、こんな突然のアイディアを喜んで受け入れてくれるイラク人の懐の深さには毎度のことながら驚かされる。

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5日にハニさんに話をした際に見せた原爆のパネルからインスピレーションを得て、ハニさんは早速2枚の作品をわずか2日で仕上げてくれていた。原爆のきのこ雲を背景にしたヒロシマ・ナガサキの絵と、空襲を受ける街を背景にしたイラクの絵との組み合わせである。2枚ともに苦痛に歪んだ人々の表情が描かれていて、59年前のヒロシマ・ナガサキから現代のイラクへと続く同じ痛み、苦しみの共有が、ハニさん特有の厚いマティエールによる繊細な色彩の調和と光の演出によって美しく表現されていた。

ギャラリーの庭、正面入り口から右の一角にスペースをとってその2枚の絵を展示し、画家でギャラリーのオーナーでもあるカッシムさんが用意してくれた大きなブラックボードの中央にキャンバス固定し、その周囲に原爆のパネル、そしてサラマッドが昨夜から朝5時までかけて印刷してくれたイラクの戦争被害の写真を貼り付けて、中央のキャンバスにアーティストがそれぞれのメッセージを自由なスタイルで描いていく。アーティストは皆ハニさんが呼びかけてくれていて、LAN TO IRAQに出展しているサラーム・オマールさんも来てくれた。ファルージャから来てくれた政治地理学を研究している学者で詩人のアハメッドさんは詩を書いてくれて、また学校で音楽を教えているマジッドさんがかけつけてオウド演奏を披露してくれるなど、実に多彩なアートの共演が実現した。
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自由を奪われた独裁政権下、画材すら入手困難であった経済制裁、多くの友を失った度重なる戦争、屈辱的な占領下を乗りこえて、そしていまだ混沌とするこのイラクで表現を続けてきたアーティスト達によって、物悲しげなオウドの旋律をバックにキャンバスは色とりどりの思いが塗り重ねられていく。

昨日広島の被爆者から送られてきたメッセージを英訳し、サラマッドにアラビア語に訳してもらったものをコピーして参加者に配った。「あなたたちと私たち被爆者の心は同じです。あなたたちの苦しみは私たちの苦しみです。あなたたちがいろんな困難を乗り越えて、戦争と暴力のない新しいイラクと、新しい21世紀への歩みを続けてくださるよう願っています」といった内容である。

イラク人アーティストからは、「イラクは第二のヒロシマになっている」「いつの時代も歴史のない国が歴史を持つ国を滅ぼしていく。このようなことが同じ地球上で同じ人間によって行われているということを、神は決して許さないだろう」「人類はとてつもない技術を手に入れたが、どうしていつもこのような間違った使い方をしてしまうのか。芸術とは常にそうした力に対して闘っていくものだ」などの意見が寄せられたが、「われわれがヒロシマ・ナガサキに伝えるべきメッセージは全てこの作品に込めた。あとはこの貴重な第一歩を大切につなげていって、伝え続けていくことだ」というハニさんの言葉からアーティストとしての魂を強く感じ、また大いなる勇気をもらった。
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ハニさんが呼びかけてくれてイラク国内のメディアもテレビ、新聞等数社来てくれたが、取材を受けたのはなぜかクルド系のメディアだった。インタビューの最後に、「ヒロシマ・ナガサキからイラクへと続くこの問題は2国間だけではなく世界の問題です。どうかもっと世界中に伝え続けてください」とお願いされた。時間がなくて国外メディアをあまり呼べなかったことが悔やまれる。カッシムさんもアルアラビーヤなどに呼びかけてくれたのだが来てくれなかったようだ。日本からは共同通信の記者が一人。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040808-00000049-kyodo-int 欧米系メディアも少しは来ていたようだがどこだったのかまだ確認がとれていない。

この作品を日本に持ち帰り展示して、今度は日本のアーティスト達に描いてもらってイラクに届ける。こうした芸術の持つ力によって、歴史の痛み、苦しみを共に分かちあい、また継承していくというこの貴重な第一歩を大切に育んでいき、少しずつでも大きなものにしていこうと思う。

夜、事務所で明日出国するという布施さんと通訳のS氏と今日のイベントのことを話し合い、また、バカ話で盛り上がっていると、突然ゴウンという音が鳴りはたと会話が止まる。ジェネレーターの調子が悪かったのでてっきりその音かと思い、一度スイッチを止めて様子を見てみたが、数十秒後に再びゴウンと鳴り響いた。迫撃砲だろうか。遠いのでちょっとわからないが、一分おきくらいで断続的にやってくるので空爆のようにも感じ、戦時下での緊張感が再び甦る。おそらくサドルシティーだろう。昼、ギャラリーでも、ナジャフでの戦闘でサドル派のマハディ軍中心に300人ほど殺されたとか、きな臭くなってきた情勢についてアーティスト達が話し合っていたのを思い出した。サマワ出身の通訳S氏がサマワの新聞社に電話で確認すると、サマワでも戦闘があったということだ。また、親にも連絡をとっていたようだったが、「心配させるといけないから、いまのこの衝撃音のことは言えない」と口をつぐんだ。

ヒロシマ・ナガサキから続くお互いの苦しみを共にわかちあったばかりだというのに、この衝撃音の下で、イラクでは今もまた新しい苦しみが生み出されていく。

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Comments

『アートでつなぐ歴史の記憶』まさに芸術による民衆の連帯ですね。イラクでもこういった関わりを持てるところまでになって来たのかとも思います。しかし、情勢はいまだに予断を許さないのでしょうか。サドル派への弾圧はいっそう激しくなっていくでしょう。サマワでは、先だって殺害された民間ボランティアのイラク人3名の部族たちが「犯人はサドル派だ」と決め付けて、同派に対する『報復宣言』のチラシをサマワ市内に撒いているそうです。

 『仁義なき闘い…イラク編』と言うか、規模こそ違いますが、かつて70年代の日本の学生運動間でも起こった党派の内ゲバにも似たような暴力の構造が此処イラクに見えてきます。

Posted by: wattan | August 08, 2004 at 07:48 PM

 ハニさんの絵、いいなあ!!さすがだね。それにしても、サドル派民兵との衝突の原因は(サドル派によれば)ムクタダ・サドル師の家を米軍が包囲したことだそうだが、国民会議の開催延期が続いている中で、ワザとイラク混乱させようとしているのかねぇ、米軍は。大丈夫だろーけど、気をつけて。

Posted by: シバレイ | August 08, 2004 at 09:42 PM

はじめまして。いつも拝読しています。ハニさんの作品,志葉さんのウェブログで写真で拝見したときもモニタをじっと見つめましたが,今回の作品もそうです。

さて,北海道新聞のサイトでこの展覧会の記事を見かけたので,取り急ぎご連絡に上がりました。
原爆、戦争の苦難忘れない イラク芸術家が即興アート
【写真】  2004/08/08 16:28
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20040808&j=0026&k=200408089931

Posted by: nofrills | August 09, 2004 at 03:08 AM

wattanさん、『仁義なき闘い…イラク編』ですか・・・。なるほど、そうも言えるかもしれませんが、嫌な展開ですよね。

志葉くん、ブログで紹介してくれて感謝です。ハニさんの絵、ちょっと待っててね。

nofrillsさん、はじめまして。記事紹介ありがとうございます。完全版ですとハニさんのコメントも載っているはずなのですが、Web上ですとどうも削られているようなんですよね。コメント付きの完全版発見されたらおしえてください。ところで非常に便利なサイトですね。今後活用させていただきます。

Posted by: YATCH | August 09, 2004 at 08:35 PM

絵画を通じて平和を願う思いが伝わってきます。ヒロシマ・ナガサキのことは、日本人よりもイラクの人たちのほうが思いを寄せているのですね。長崎原爆忌のきょう、美浜原発で事故が起こり、4人の犠牲者が出ました。放射能漏れの心配はないとのことですが、もしもそのようになっていたら、近畿地方一帯が汚染の危険性があったとのことです。核兵器も原発ももうやめてほしい! ウラン弾のことは日本では本当に報道されないのも気になります。

Posted by: Shalom | August 09, 2004 at 10:19 PM

Shalomさん、
ヒロシマ・ナガサキを機に人類は全く新しい歴史に突入したわけですから、本当は西暦なんてやめてしまって、1945年からヒロシマ・ナガサキ暦と呼ぶべきだったんではないかと思っています。

Posted by: YATCH | August 14, 2004 at 09:03 PM

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